今回のツアーは金王八幡宮御鎮座九百二十年祭にちなんで渋谷の文教地区を巡るツアー。いつもの駅付近の集合とは違って金王八幡宮前での集合です。境内からは神楽殿で行われているお祭りの催し物の音が響き、金王八幡宮前の道路は屋台を出入りする人で賑わっていました。
金王八幡宮前の解説から始まって魚玉・千本堂へ。
魚玉は今では珍しくなった看板建築のお店。看板建築とは、軒を出さずに建物前面を平坦な壁にして、そこに看板のような自由なデザインを凝らした建築のこと。魚玉では魚にちなんで、なのか、うろこ状に貼られた銅板の装飾が素敵でした。
信号を挟んで向かいの道に少し入ったところにある千本堂は昭和12年創業の和菓子屋さん。この界隈に住んでいた文豪も通っていたお店だそうです。 渋谷にこういう「街」ではなくて「町」の味わいのあるお店が今もあるなんて、ちょっと意外です。
渋谷氷川神社の境内へ入ると、更に「渋谷らしからぬ」風景が広がっていました。鬱蒼と茂る木々は頭上の遙か上…。まるでトトロの森のようです。いつも知る駅前の渋谷の姿とのギャップに、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなります。
境内には「江戸郊外三大相撲」の一つである金王相撲が行われていた土俵もありました。
社殿でお参りをして、次の目的地・温古学会会館へ。
温古学会会館には塙保己一(はにわ・ほきいち)が生涯かけて製作した「群書類従」の版木が保管されています。この「群書類従」は、塙保己一が各地に散らばる貴重本を木版に落とし込んだもので、その数、全666冊・約34000ページ分! 江戸時代から今日までに出版された部数はおよそ70万冊を超えています。江戸時代に「後世に残す」ことを目的にこんな大事業が行われていたなんて驚きです。
たまたま通りかかった温古学会で唄を教えていらっしゃるおじさまによる一曲披露のサプライズもありました。
國學院大學ではまだできたばかりのキャンパスを散策。門や柵がほとんどないのが印象的。「地域に開かれた大学を」目指した結果、このかたちになったのだとか。 西日をもろに受けてしまう窓にはひさし状の反射板のようなものが取り付けられていました。これが陽射しを和らげる役割を果たし、同時に、その光を天井に反射させて室内に自然光を取り込みやすくしているそうです。
國學院大學は神殿を持つ大学として有名ですが、その神殿の周りを流れている小川は柵や大きな石もなく流れるままに勝手に流れている感がありました。その自由さは見ていると心に安らぎをもたらしてくれます。小さなパワースポットかも。
復路は白根記念渋谷区郷土博物館・文学館~常盤松の碑を経由して再び金王八幡宮へ。社務所で金王八幡宮・宮司の田所さんのお話を聞きました。
社務所で金王八幡宮の歴史などを勉強した後に普段はあがることのできない本殿へ。本殿の御簾は普段は下りているけれど、このお祭りのときとお正月のときだけは上げられるのだそうです。そして、御簾の奥の扉が開けられるのはそのうちのお祭りのときだけ。お正月は扉が閉められて、徳川家の家紋が現れるそうです。
宝物殿では田所さん直々に収蔵物の解説をしていただきました。お祭りでお忙しいところいたれりつくせりの解説、ありがとうございました。
そして、最後は交流会。今回は、お祭りの屋台の料理をみんなで囲みました。天候にも恵まれ、清々しい青空の下、秋らしい休日となりました。
今回のツアーは渋谷の意外な側面を見ることができました。魚玉・千本堂の懐かしいぬくもり、氷川神社の静けさ、温古学会会館や白根記念渋谷区郷土博物館・文学館で学べる古典や歴史…。この文教地区は入っているスイッチを全部一回オフにして、リセットさせる力があるように思いました。懐かしい町に帰る、自然に帰る、昔に帰る、私に帰る…そういう「帰れる」渋谷が文教地区にはあるのです。
なにか嫌なことがあったら、渋谷でわーっと飲むのもいいけど、今度はこっちの渋谷に帰ってこようかな。